プリンチピアーノ・フェルディナンド / バローロ・セッラルンガ [2012]

実は10数年前、ワインが面白く無くなってきた時期があった。どのワインを飲んでもある意味想定内。香りを嗅いだ時点で全てが想像でき結果もその通り。いつも見慣れた顔に飽き飽きしてきた感じになってしまいワインを飲んでも感動がない。しかしここまでワインの世界で生きてきただけにここでワインを辞めてしまうのはどうかと思い続けてきた。そして新しいワインの世界を知り、初めは面白くないなと思いながら扱い続けた。今ではどうであろう。ワインに昔のようなインパクトを求めることはなくなり質感の世界にハマりつつある。

料理は健康志向、材料費の値上げを吸収するためもあって今では量がかなり少なく、塩分も控えめ。料理が変わると当然ワインも変わってくる。そして世代交代、若手の台頭、嗜好の変化が起こりワインの世界は昔とは全然違うのだ。懐かしいとも思うが、今改めて昔のワインを飲んでみるとある意味雑さ、酸化防止剤過多の問題点、農薬や化学肥料による影響など気になってしょうがなくなってきた。そして自然派の台頭によって質感を追求するワインが増え、当然その中にもいろいろな問題が生じてくる。昔のワインと同じように扱うために生ずる酸化の問題、醸造の難しさ、ただ自然派というだけでつまらないワインの数々、でもその中にとてつもないワインが生まれ始めている。

ニコラ・ルナール、ボデガス・ラボラトリオ・ルペストレなどは、まさに天才で自然派の基準を逸脱したような新しい世界のリーダー。他にもそれに次ぐ魅力的な生産者が出始めている。

さて本題のプリンチピアーノ、彼のワインは実に現代的で昔のバローロとは違う。とにかく綺麗でうまく作られており早熟系。昔のように長い間熟成させなくても数年で開き始め昔とは違った魅力を見せ始める。まだまだこういった世界は始まったばかりだけにどこまで熟成によって変化するかは未知数ではあるが、ワインが世界中でブームになり消費量が多くなった現在、昔のような世界を求めるのもどうかと思うし、昔だって熟成に耐えられても大きな変化を伴わないワインも沢山あった。

2012年のこのワインはすでに十分な魅力を発し始めている。なんか最近自然派のワインばかり飲む機会が増えたせいか、あれだけフランスワインに傾倒していたのに、最近はイタリアワインがいいなと思い始めている。表情が意外と複雑でそれでいて質感も良く飲みごたえもありいつもは一人で1本飲むと1/3くらい残るのだが、このワインはあっという間に飲みきった。

昔お店をやっている頃にお客様が美味しいと思っているかどうかを判定する基準として飲むスピードを見ていたことがある。美味しいワインほど早くなくなることが多いのだ。

極端に感動するようなインパクトすらないが、インパクトだけあって質感が雑で飲み飽きするようなワインより全然良い。これから数年かけてかなり良くなっていくことは間違いなく、それでいて価格も安いのには驚くばかりだ。

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